尿路感染症

KIMURA Urological Clinic, Department of Urology
71 腎臓から尿道(尿路という)に異常がない健康な方でも、緑膿菌による尿路感染症になることはある?

緑膿菌感染症は正常人で発症することはきわめて稀で、感染に対する防御能が低下している宿主で発症します。多くは抗菌剤を用いた治療中の菌交代症として発症し、おもに病院内で発生しています。緑膿菌は本来弱毒菌ですが、通常は病原性の強い菌と複数菌感染を起こします。多くの抗菌剤に耐性で、しかも菌自身が粘着性の層を産生するので食菌細胞による食菌作用にも耐えるわけです。

 気管内挿管をしなければならない患者さんや術後の患者さんなど、感染防御能が著しく低下している場合に発生します。その他、泌尿器科領域ではカテーテルを留置していたり、尿流障害がある場合に好発します。
緑膿菌に有効な抗菌剤はいくつかあります。問題は尿流障害などの緑膿菌感染が起こりやすくなっている宿主の状態をどのように改善させるかということになります。そうしないと次に緑膿菌感染症になった場合の治療に困るわけです。
一方、尿流障害もなく特に病弱でもないという方の場合は、尿路感染自体が発症しにくいので、緑膿菌感染の心配も少なくなるわけです。

尿路感染(301017)

 

 

 

 

 

 

65 腎瘻(腎孟へのカテーテルの留置)から尿の排泄を行っている方でも発熱を伴うことはある?

留置カテーテルについては問題34問題48でも取り上げました。

腎瘻については少し違った角度から考えてみなければなりません。最近のメールの質問で、腎臓にカテーテルが入っている(腎瘻)方で、ときどき発熱を伴うけれどもその原因は?という質問がありました。私にとってはこのような問題点があるということ自体が不思議でしたが、患者さんやご家族にとっては重大な問題点であることを自覚させていただきました。メールを出していただいた方に感謝しています。

尿道カテーテルの場合はカテーテルからの尿の流れが悪く、腎臓へ細菌尿が逆流して腎孟内圧が上昇した場合に急性腎孟腎炎が成立すると記載しました。これに対して腎瘻の場合はカテーテルから尿が流れていても、腎孟・腎杯の一部からの尿の流れが阻害されると腎孟腎炎は成立することになります。この場合、カテーテルからの尿の流れがスムーズであっても腎孟腎炎が成立するので注意する必要があります。

原因としてはいろいろ考えられます。カテーテル自体が尿の流れを阻害していることもあります。結石が原因のこともあります。腎臓内での腎孟・腎杯の形態的な構造がカテーテル留置に向いていない場合もあります。この場合は腎瘻をつくるときにカテーテルの走行などを考えておく必要もあるわけです。

尿路感染(320001)

 

 

 

 

 

63 胎児の正常な発育を考えると、妊娠中の抗生物質の使用には慎重でなければならない?

クラミジア感染症で使われる薬剤の一つであるクラリスロマイシンを取り上げます。この抗菌剤は病原微生物の増殖に欠かせない細胞内の蛋白合成を阻害することによってその効果を発揮するわけです。この作用が胎児の発育時にも影響を及ぼすというわけで、妊娠中の胎児の器官形成期には特に注意が必要だというわけです。従って、妊娠または妊娠している可能性のある女性に使う場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にだけ投与するということになります。

クラリスロマイシンのヒトでの使用量は成人で通常一日400mg(200mg錠を一日二回内服)ですので、仮に体重50kgの女性で換算しますと、400÷50で8mg/kg/日となります。ヒトでの検討はできませんので、これを手元にある動物実験のデータでみてみましょう。

1)SD系ラット(クラリスロマイシン5〜150mg/kg/日)とCD-1系マウス(15〜1,000mg/kg/日)で母動物に毒性が現れる最高用量で、ラットの胎児に心血管系の異常が、マウス胎児に口蓋裂が認められています。(ヒトでの使用量の約20〜100倍量)。
2)サル(35〜70mg/kg/日)の実験で、母動物に毒性が現れる70mg/kg/日で9例中1例に低体重の胎児がみられました。しかし、外表、内臓、骨格には異常は認められていません。 (ヒトでの使用量の約10倍量)。

このように、動物実験ではヒトで使用するよりも多い薬剤量で検討するのが普通です。それにしてもヒトでも催奇形作用は十分に考えられるわけです。

それでは、妊娠成立の直前までクラリスロマイシンを内服していた場合はどうなるかを考えてみます。それには薬剤の体内からの排泄を考えなければなりません。クラリスロマイシンは投与後24時間までに30〜50%が尿中に排泄されます。腎機能が正常であれば数日で代謝産物も含めて体内から消失するはずです。この場合は影響はないと考えてよいと思います。

抗菌剤(304001)

 

 

 

 

 

 

57 小児の膀胱尿管逆流はすぐ手術をして逆流を防止しなければならない?

こどもの膀胱尿管逆流に対する対応は重要な問題です。膀胱尿管逆流があると必ず膀胱炎や尿道炎になるわけではありませんが、この病気に気付かないでいると知らず知らずのうちに腎機能が低下してしまうという危険性があります。
本来腎臓の中は比較的低い圧力に保たれているのですが、逆流があると腎臓の中に高い圧力が加わって腎機能が低下するわけです。これに腎孟腎炎が加わると腎機能の低下は加速されます。従って膀胱からの逆流を止めてやって腎孟腎炎にならないようにすることが治療の基本になります。
逆流を防止する尿管の下端は加齢と共に発育するので、逆流が自然に消失することもあります。自然消失の頻度は十歳をすぎるとほとんど認められなくなります。このように軽度の逆流は腎孟腎炎の再発に注意しながら、十歳頃までは逆流の自然消失を期待することも可能です。膀胱尿管逆流が発見されたらすぐ手術をしなくてもよいことがあるという意味でにしました。


膀胱尿管逆流(320001)

 

 

 

 

 

37 男性のクラミジア感染症は射精時疼痛の原因にはならない?射精時の疼痛にはいろんな原因があります。今回は炎症が原因になっている場合を取り上げています。
射精現象は、1)精液の後部尿道への排出、2)膀胱と尿道の境界である内尿道口の閉鎖、3)外尿道口から精液の排出、という三段階で成り立っています。これについては問題35でも取り上げました。
上記の過程で精液成分が排出されるためには収縮過程が必要です。このときに炎症などがあれば痛みの原因になるわけです。
しかし炎症があれば必ず痛みを伴うというわけではなく、炎症の程度によることは容易に理解できると思います。射精時やその前段階で痛みがあるために受診して、初めてクラミジアのような性感染症を指摘される場合もあります。正解はです。
これからも推察されると思いますが、クラミジア感染症の症状が、排尿痛や尿道からの膿の分泌だけだと短絡的に考えてはいけません。精液は後部尿道に開口している射精管口から排出されて射精が起こるわけですが、この辺の解剖は非常に複雑です。精子の通路である精巣上体管、精管、射精管も、精液の一部を作る精嚢やその通路の一部である精嚢膨大部の発生母地は何れも胎生期の中腎を基にしています。中腎の部位による違いというわけです。
射精(502001)

 

 

 

 

 

 

34 留置カテーテルを使用している方は、無症候の膀胱炎にとどまるので、敗血症になることはない?敗血症は血液中から菌が検出される状態(菌血症)に加えて、全身性の炎症反応を伴う病態です。基礎疾患のある患者さんで発症します。

基礎疾患としては次のようなことを考えておく必要があります。
1)尿路や胆道系あるいは呼吸器感染症などの重傷感染症が進行した場合
2)術後感染症が悪化した場合
3)尿路あるいは血管内留置カテーテルからの菌が血管内に入る場合
4)感染性心内膜炎など血管内感染症が存在する場合

尿路カテーテルを留置された患者さんでは感染が下部尿路に限局している場合は、細菌尿、膿尿、血尿を伴いますが、痛みなどは伴わない無症候性の膀胱炎にとどまります。
しかし炎症が上部尿路に波及すると、発熱や悪寒などを伴った腎孟腎炎となります。カテーテルからの量の流れが悪くなったりすると腎孟腎炎が重症化することがあります。
高齢者や術後患者さんなどで体力が極度に低下している場合は敗血症を合併することがありますので注意しなければなりません。

尿路カテーテル関連の敗血症の起炎菌は大腸菌が最も多く、次いで緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む黄色ブドウ球菌、腸球菌などが認められます。

敗血症(301017)

 

 

 

 

 

 

32 発熱を伴う腎孟腎炎が成立するためには膀胱炎が発症していなければならない?

腎孟腎炎が成立するためには、膀胱内に流れてきた尿が尿管から腎臓に逆流する必要があります。これを膀胱尿管逆流と呼んでいます。正常な方では、膀胱に到達した尿が再び尿管の方に逆流することはありません。この逆流を防止する機構は非常に巧妙に出来ています。
通常の場合、逆流のみで腎孟腎炎になることはなく、最初に膀胱尿に炎症がなければなりません。膀胱炎が先行するわけです。
しかし感染した膀胱尿が腎孟に到達しても必ずしも腎孟腎炎になるとも限りません。腎孟に到達した尿が速やかに膀胱内に流れてくれば発熱を伴う急性腎孟腎炎になることはありません。腎臓から膀胱への尿の流れが障害される何らかの原因があることになります。腎孟内圧の上昇がなければなりません。最も多いのが腎下垂症の合併です。
何れにしても、その原因を泌尿器科的な検査によって明らかにしておく必要があります。膀胱尿管逆流のタイプは大きく二つに分けることが出来ます。一つは常に逆流がおこっている場合です。腎孟腎炎を繰り返すような場合には逆流を止める手術療法をしなければならないこともあります。
しかし、膀胱尿管逆流があれば必ず腎孟腎炎になるわけではなく、このことに気付かずに過ごしてしまう子供もおります。この間に腎機能の低下が進行することが問題となります。逆流する度に腎孟内圧が高まって腎機能が低下していくことになります。腎孟腎炎を併発すれば腎機能低下は加速されることになります。幼小児期に腎孟腎炎と考えられる発熱があった場合には注意する必要があります。
泌尿器科的な検査をすればすぐ分かりますので検査を躊躇してはなりません。もう一つは通常は逆流はないけれども、膀胱炎を起こしたときだけ逆流がおこるタイプです。尿管と膀胱の移行部が解剖学的に不完全であるため、膀胱内の炎症で粘膜組織が変化して逆流を起こしやすくなる場合です。この場合はほとんど手術療法の必要はありません。

腎孟腎炎(303001)