胎児の正常な発育を考えると、妊娠中の抗生物質の使用には慎重でなければならない?
クラミジア感染症で使われる薬剤の一つであるクラリスロマイシンを取り上げます。この抗菌剤は病原微生物の増殖に欠かせない細胞内の蛋白合成を阻害することによってその効果を発揮するわけです。この作用が胎児の発育時にも影響を及ぼすというわけで、妊娠中の胎児の器官形成期には特に注意が必要だというわけです。従って、妊娠または妊娠している可能性のある女性に使う場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にだけ投与するということになります。
クラリスロマイシンのヒトでの使用量は成人で通常一日400mg(200mg錠を一日二回内服)ですので、仮に体重50kgの女性で換算しますと、400÷50で8mg/kg/日となります。ヒトでの検討はできませんので、これを手元にある動物実験のデータでみてみましょう。
1)SD系ラット(クラリスロマイシン5〜150mg/kg/日)とCD-1系マウス(15〜1,000mg/kg/日)で母動物に毒性が現れる最高用量で、ラットの胎児に心血管系の異常が、マウス胎児に口蓋裂が認められています。(ヒトでの使用量の約20〜100倍量)。
2)サル(35〜70mg/kg/日)の実験で、母動物に毒性が現れる70mg/kg/日で9例中1例に低体重の胎児がみられました。しかし、外表、内臓、骨格には異常は認められていません。 (ヒトでの使用量の約10倍量)。
このように、動物実験ではヒトで使用するよりも多い薬剤量で検討するのが普通です。それにしてもヒトでも催奇形作用は十分に考えられるわけです。
それでは、妊娠成立の直前までクラリスロマイシンを内服していた場合はどうなるかを考えてみます。それには薬剤の体内からの排泄を考えなければなりません。クラリスロマイシンは投与後24時間までに30〜50%が尿中に排泄されます。腎機能が正常であれば数日で代謝産物も含めて体内から消失するはずです。この場合は影響はないと考えてよいと思います。
抗菌剤(304001)
|