前立腺炎・膀胱炎・クラミジア

72 尿中のクラミジア抗原が陽性で前立腺炎様症状を伴う方の中には、クラミジア感染の治療をしても症状が持続することがある。これはクラミジア感染症が治っていないからである?

前立腺炎の症状で医療機関を受診した方の中には、問診などからクラミジア感染症を考えなければならない場合もあります。一般的には検体としての尿中にクラミジア抗原が存在するかどうかを検査することになります。検体は尿だけでなく他の分泌液などを選択する場合もありますが、これは専門的になりますので、ここでは触れません。

クラミジア感染症の治療薬には、クラリスロマイシン、ミノサイクリン、レボフロキサシン、トスフロキサシンなどがありますが、二週間の投与で治癒します。このような治療にもかかわらず「前立腺炎が治らないために同じ薬剤をもっと長期間服用している・・・、なぜ治らないのでしょうか?」という質問がたくさんありました。このような場合、クラミジア感染を契機にクラミジア以外の病原微生物の感染が前立腺内で起こっている可能性があります。症状の持続には前立腺組織の一時的な変化も考慮に入れなければなりません。従って同じ薬剤を二週間以上にわたって内服する意味はなくなるわけです。他の治療法を考えなければなりません。正解は×です。(例外はあるかもしれませんが、私は経験しておりません。)

前立腺炎(302003)

 

 

  

 

68 何度も繰り返している女性の膀胱炎(再発性膀胱炎)を予防する最善の方法は、いつも水分をたくさん飲むことである?

膀胱炎の予防という点から考えると水分摂取は意味のあることです。しかし、水分摂取を増やしたからといって「再発性膀胱炎」を予防できるというものでもないようです。水分摂取の意味については問題20に記載しています。
膀胱炎を起こさない女性は、特に水分を多く取っているということもなく、普通の日常生活を送っています。このように正常の場合は、膀胱炎症状を繰り返すということはあり得ないので、原因は他にあると考えなければなりません。
細菌尿の原因として、問題51で、1)膀胱内異物、2)感染性尿路結石、3)尿道憩室、感染性の傍尿道腺、4)左右何れかの感染性の萎縮腎、5)膀胱腟瘻などについて触れました。
しかし、再発性の膀胱炎の原因としてはこのようなことが原因になっていることはまれで、ほとんどは膀胱から尿道にかけての器質的あるいは機能的な問題に限定できるようです。原因治療が重要になるわけです。

再発性の膀胱炎になったとき、どのような抗菌剤を用いたらよいのかという点についても、「水分摂取」と同じレベルの考え方にすぎません。現在感染している細菌に有効であればよいわけで、数日間の内服で効果がないようであれば、その薬は効果がないのだとあきらめることの方がが大切です。

尿路感染(301016)

 

 

  

 

58 慢性前立腺炎では感染性の前立腺結石が関与していることが多い?

前立腺炎の中でも慢性前立腺炎は会陰部や腰部、下肢などの鈍痛といった不定愁訴が強いので患者さんは大変です。特に椅子に腰掛けて仕事をしなければならない人にとっては大きな問題です。
成人男性の70%位の方は大きさや数はともかく前立腺結石を持っているようです。前立腺結石が感染していない場合はほとんど症状がないため問題になることはありません。また症状のない方は自分の前立腺に結石があるとは知らないでいる方も多いと思います。症状がなければそれでよいのですが。慢性前立腺炎の方では前立腺分泌液の炎症所見の他に多数の方でこの感染性と考えられる結石を認めます。 通常の検尿では炎症所見は認めません。前立腺分泌液を採取して初めてこの診断が出来るわけです。
前立腺組織の中に、効率よく薬剤を到達させるためにはいろんな工夫をしなければなりません。膀胱炎などのように、内服あるいは注射した薬剤が尿中に高濃度で排泄される場合と同じに考えるわけには行きません。
前立腺炎の中のプロスタトディニアでは考え方が異なりますが、この問題の正解はにしました。

前立腺炎(302002)

 

 

 

52
なかなか治癒しない尿路感染症では尿路結核症も考慮に入れなければならない?

尿路性器結核症は、尿路系の上部からみて腎結核、尿管結核、膀胱結核、前立腺結核、精巣上体(副睾丸)結核が主なものです。症状としては膀胱結核の症状が主なものとなります。
症状は通常の感染症と同じで、尿の混濁をはじめとすて、排尿痛、頻尿、残尿感などがあります。注意しなければならないことは、頻尿などは通常用いられる頻尿改善薬で様子を見られる危険性があることです。
結核が精嚢や精管に及ぶと精管などの閉塞症状となって、男性不妊症に移行してしまうこともあります。

尿路感染(310005)

 

 

  

 

51 膀胱炎を繰り返す方の中で、いつも細菌尿を認める場合はその原因を検査しておく必要がある?

膀胱炎症状を繰り返す方には何らかの原因があります。検尿で細菌や白血球を認めない場合もあります。これにも原因は必ずあります。
今回の問題は尿中に細菌を含んでいる場合(細菌尿)を取り上げています。

排尿した後も残尿として膀胱内に尿が残る場合は一番わかりやすい疾患です。その他にも次のような疾患が考えられます。
★膀胱内異物
★感染性尿路結石
★慢性細菌性前立腺炎
★尿道憩室、感染性の傍尿道腺
★左右何れかの感染性の萎縮腎
★膀胱腟瘻
★左右何れかの海綿腎
★膀胱周囲に出来た膿瘍との膀胱瘻
その他にも腎摘出後に残された尿管の問題や、重複尿管で一方が膀胱外に異所開口している場合などです。膀胱内異物のなかにはマスターベーション目的で使用したものの一部が気付かないうちに膀胱内に入ってしまっていることもあります。

尿路感染(310004)

 

 

  

 

50
小児の亀頭包皮炎は誰にでも起こるので外用薬を塗布しておけば大丈夫である?

小児の亀頭包皮炎は仮性包茎に起因することが多いので、泌尿器科でよく見てもらって下さい。包皮の内側(包皮内板)と亀頭の表皮が癒着しいる場合には、炎症が改善したあとでその癒着を剥離しておくことが大切です。
剥離は親御さんにも出来ますが、不安であれば泌尿器科に頼んでみましょう。入浴時に亀頭を露出して亀頭と包皮内板の間をお湯で洗うような週間をつけると亀頭包皮炎になることはありません。

亀頭包皮炎(303001)

 

 

  

 

48 膀胱洗浄するときの感染を考えると、尿道から留置されているカテーテルからの膀胱洗浄は絶対行うべきではない?

排尿障害のため不本意にも留置カテーテル(持続カテーテル)を使用しなければならない患者さんがおります。留置カテーテルで問題となるのが尿路感染です。そういう意味では自己導尿が一番よいわけですが、手が不自由でうまく自己導尿を出来ない方がおります。
しかし、尿路感染があってもカテーテルからの尿の流出がよい場合には膀胱内圧が上昇しないために、発熱を伴った腎孟腎炎に移行することはありません。

人間は生来楽な方法を選ぶ傾向にあります。留置カテーテルを使用している患者さんの膀胱洗浄をした方がよいのか、それともしないで済ませることが出来るならばそれにこしたことはありません。

膀胱洗浄をしないで済む患者さんは、次のような条件を満たしていなければなりません。

  • 自分で体を自由に動かすことが出来て、膀胱内の尿が撹拌された状態になっていること。
  • カテーテルから尿が十分に流出しているかを患者さん自身が確認できること。尿の流出が滞ったら、流れるように出来るコツを理解していること。
  • 体力的にも必要な尿量が確保されている元気な方。

以上の条件を満たしていれば、カテーテル内の塩分などの付着状況によって、カテーテルの交換をすればよいわけです。交換時期をいつにするかは患者さんによって異なります。初めから楽な方法を選ぼうとすると、意識的か無意識的かは別問題として、前述の条件を忘れてカテーテルを留置されている患者さん全体に適用してしまう危険性があります。

体を動かせない患者さんにこれを適応すると、膀胱結石や発熱を伴った腎孟腎炎になってしまうわけです。この段階で気付いて洗浄を十分に行えば未だ救われます。不幸な患者さんの場合は原因の除去無しに、いろんな抗生物質を投与されるわけです。一時的に症状の「改善があっても原因を除去していないわけですからまた再発します。このようなことを繰り返していると、菌交代現象や尿路カンジダ症、そして最後にはMRSA感染へと進んでしまうわけです。
本来、MRSA感染や菌交代現象は防げるはずなのです。

あるHPの質問コーナーに若い看護師さんからの質問がありました。
要約すると、転勤してきたある病院では膀胱洗浄の指示が医師から看護師さんに出されるそうです。看護師さんの言い分として、前に勤務していた病院では膀胱洗浄はしなかったそうです。「膀胱洗浄は感染の危険性があるのでしない方がよいと教わってきた。他の病院に勤務している看護師さんの場合はどうですか。最近は膀胱洗浄をしない方向になっているはずですがと」
この質問を読んで私は唖然としました。膀胱洗浄で新たな感染を引き起こすようではお話になりません。
世の中何かが狂っているとは思っていましたが、人命を預かる医療現場まで浸透しているとは。正解は×です。

尿路感染(301015)

 

 

  

 

31 前立腺炎の原因微生物はクラミジアが圧倒的に多い?

前立腺炎の分類はいろいろありますが、
1)急性細菌性前立腺炎、2)慢性細菌性前立腺炎、3)慢性非細菌性前立腺炎、4)プロスタトディニア、に分類するのが一般的です。

前立腺炎の診断は、肛門から前立腺部を圧迫すると尿道から分泌液(前立腺分泌液)が出てくるのでそれを顕微鏡で観察すると白血球や原因菌の一部を確認することが出来ます。原因菌の確認には培養という検査が必要になることもあります。
通常の検尿では急性細菌性前立腺炎以外はほとんど所見がないことに注意しなければなりません。

急性細菌性前立腺炎の原因微生物で一番多いのが大腸菌です。他の微生物との複数感染を認めることもあります。
慢性細菌性前立腺炎の起炎菌としてはグラム陰性桿菌(主に腸内細菌)が多くなっています。一部のグラム陽性菌を確認することもありますが。
一般的な細菌以外では、クラミジア、ウレアプラズマ、マイコプラズマ、トリコモナスなどを認めることもありますが。
慢性非細菌性前立腺炎の起炎菌は分泌液中の菌濃度が少ないために原因微生物として同定できないことが多数含まれていることも考えておく必要があります。

一番やっかいなのは慢性非細菌性前立腺炎とプロスタトディニア(日本語では前立腺痛?)ということになります。プロスタトディニアは前立腺分泌液の所見が正常という点で慢性非細菌性前立腺炎とは異なります。これら二つの症状は下腹部・会陰部・腰部の鈍痛や不快感が特徴的です。特に坐位で会陰部が圧迫されると症状が増悪することがあります。
通常の検尿では当然正常なので、泌尿器科的な診断が必要になります。

尿路感染(302001)

 

 

  

 

24 比較的高齢のご婦人にみられる慢性膀胱炎の不定愁訴(頻尿、下腹部・腰部の不快感など)の治療には、安定剤などを使用するのが一番効果的である?

●高齢ご婦人の中には膀胱の不定愁訴(頻尿、下腹部・腰部の不快感など)は、年だからとあきらめている方もいるようです。本当にあきらめる必要があるのでしょうか。
慢性膀胱炎とされている病態の中で一番多いのは、尿道から膀胱三角部といわれている部分までの器質的な病変です。
原因はいろいろありますが、基本的には女性ホルモンの分泌低下による粘膜組織の変化です。この病変の中に知覚神経が巻き込まれてしまうのですから、上に述べた不定愁訴は当然出てくることになります。

適切な泌尿器科的な処置をすることで、ほとんどの方は緩解しております。

●器質的な病変を治癒させる有効な薬剤は現在のところありません。しかし安定剤などで一時しのぎをして生活をするというのは、あまりにも寂しい感じがします。
あきらめる前にお近くの泌尿器科の専門医の診察を受けることをおすすめします。

正解はです。


尿路感染(301014)

 

 

  

 

20
膀胱炎になったとき、水分をたくさん飲むことは?

●急性・慢性を問わず、膀胱炎の患者さんは申し合わせたように「水分をたくさん飲んだのですが」とおっしゃいます。多分、家庭医学書などに記載されているのかもしれません。

水分をたくさん飲むという意味を考えてみましょう。水分をとると尿量が増加します。尿意をもよおしますので当然排尿します。排尿を繰り返すことによって、膀胱や尿道に存在する細菌は尿と共に体外に排出されることになります。

理論的に考えれば、細菌が細胞分裂で体内で増える以上に体外に排泄してしまえば、膀胱炎は治癒することになります。皆さんの中にはこれで薬の服用をしないで治癒した経験をお持ちの方もいると思います。しかしそれは単に尿量が増えたために治癒したのではないと理解してください。

尿中にはある程度の細菌を殺してしまう作用があります(類似した概念を血液のレベルではオプソニンopsonin効果といいますが、尿中では何と表現するかわかりませんが)。この細菌増殖を抑制する作用は、尿が希釈されると極端に落ちてきます。
膀胱内には尿道を経由して細菌が侵入する機会は常にあるわけですから、この作用がなければいつも感染症で悩むことになります。
膀胱炎が発症するためにはある程度の菌数(正確には濃度)が必要であるということも理解してください。大量の水分摂取で自然治癒したのは、上で述べた菌数減少の方が尿の細菌増殖を抑制する作用よりも有効であったということになります。

●一番大事なことは、尿の回数を増やすことです。
人間の体は非常によくできています。膀胱炎になると残尿感などで、尿の回数を増やしてくれと教えてくれます。
薬剤による治療法を書いた文書の処方例の中に、この尿意を押さえる薬剤を抗菌剤と一緒に処方しているのを見たことがありますが、これは注意した方がよいと思います。適切な抗菌剤を内服すれば、数回の排尿で痛みや強い残尿感は無くなるはずです。

症状が続くようであれば、その抗菌剤は効果がないのだと理解してください。あるいは、尿道の器質的な変化や膀胱の排尿機構に何らかの異常があると考えるべきでしょう。

●以上の説明から判断できると思いますが、次のように考えてください。

膀胱炎の初期または急性膀胱炎では水分摂取は意味のあることです。しかし頻回に排尿をしなければなりません。痛みを伴う急性の膀胱炎では、有効な抗菌剤は治癒に役立ちます。

慢性の膀胱炎では、毎日大量の水分をとる意味はありません。もっともそのようなことは現実問題として不可能だとは思いますが。
極少量でもいいですから、排尿の回数を増やして、新たな細菌の侵入を防ぐことです。そうすれば人間の体は正常の状態に戻る働きを持っているので、膀胱・尿道の組織変化は自然に治っていくものです。
慢性膀胱炎といわれる病態の大部分が、尿道から膀胱の三角部といわれる部分までの病変です。

その意味で問題の正解は△としました

慢性膀胱炎といわれている場合、このような努力をしても治癒しない場合は、上で述べた尿道の器質的な変化や膀胱の排尿機構に何らかの異常があると考えるべきでしょう。泌尿器科的な精査が必要です。

 効果のない薬をダラダラと内服すべきではありません。

尿路感染(301012)