82パイプカット(精管結紮術)は男性の永久不妊が目的ですが、結紮された精管が自然に再開通することは絶対ない?

精子(602006) 

精管結紮術(パイプカット)は副作用もなく男性の永久的な不妊手術としては最も優れた方法です。したがって手術を行うには配偶者あるいはパートナーの同意書が必要です。手術の方法は大きく二つに分けることができます。一つは事故や再婚など何らかの事情で将来子供が欲しくなった場合、切断した精管を再吻合して妊娠を可能にしようとするものです。もう一つの方法は切断した精管の再開通術を行っても正常な精子の流れが期待できない方法です。何れの方法でも精巣(睾丸)の機能に問題は残りません。

精管の自然開通が考えられるのは前者の場合だけです。頻度は非常に少ないのですが(数パーセント弱)、精管が自然に開通してしまうことがあります。プールや風呂に入ったときなど気付いているかと思いますが、陰嚢は温度によって伸びたり縮んだりします。陰嚢が伸びることによって熱を放散しているわけです。この機序で陰嚢部の温度は卵巣などが存在しているおなかよりも、約1.5〜2度(摂氏)低くなっています。この陰嚢の伸縮が精管の自然開通の一因になります。しかしこの再開通が起こりうるのは、統計上手術後一年以内に限られるようです。一年を経過してから自然再開通が起こったという報告はありません。私は後に精子の再開通術を考えたパイプカットを行った方には、一年後に精液検査を受けるようにすすめています。

このように切断した精管が自然に再開通してしまう頻度は非常に少ないのですが、起こりうるということでとしました。

 

79 自然妊娠に成功している男性の精液内には、常に正常精子のみで、異常な奇形精子は含まれない?
精子(602005) X

精液中の精子の形は皆さんもオタマジャクシのような形をしているということはご存じだと思います。精子は頭部と尾部から出来ています。頸部を加えることも可能です。精子の奇形はこれらの形の異常や欠損(尾部)など詳しく分類すると七つ程度に分類することが出来ます。
この精子の奇形がなぜ起こるのか、詳しいことはまだ分かりません。毎日一千万個を超す精子が造られています。陰嚢内の温度上昇やある種の毒素(鉛などが有名)、喫煙などがあります。他にも炎症や射精回数が少ない場合にも認められます。

精液を注意深く観察していると、正常の方でも異常(奇形)精子はかなり観察することが出来ます。精子の奇形がいくら位までなら正常としてよいのか、WHOの基準では40%までの奇形は正常としています。奇形精子は少ないに超したことはありませんが、前述した原因を考えれば妥当な値かもしれません。他にももっと詳細な分析をしている人もいます(Kruger)。

治療としては前述した原因を出来るだけ除外することになります。温度上昇という点から考えれば、一番考えられるのが精索静脈瘤ということになります。精子頭部の異常に関係があるようですが、尾部の異常には他の要因が関係しているようです。男性の約16%が多少の精索静脈瘤を持っているという統計がありますが、奇形精子をいくらかでも少なくするという意味では、治療する価値はあります。

精子の形態異常の特殊な例として、嗅覚障害を伴う精子尾部の異常があります。そのため精子の運動が欠如する疾患ですが、専門的になりますので省略します。

 

78 淋菌感染症などで男性不妊症になる原因は、細菌の精子への直接的な作用による?
性感染症(301031) X

性感染症の起炎菌がどのような機序で男性不妊症の原因になるのかは、起炎菌の種類によって異なります。今回は淋菌感染症を取り上げました。
感染後の男性不妊症の成立機序として、精路の通過障害、前立腺や精嚢など副性器の分泌機能への影響、その他起炎菌の精子への直接的作用などが考えられます。

生きた病原微生物を正常の精液の中に加えると、精子の活性が低下します。しかしこれは大量に加えた場合だけで、慢性前立腺のときに、精子がのこように大量の病原微生物に遭遇しているとは考えにくいわけです。このように臨床的には病原微生物が直接精子を殺傷しているとは考えません。このように直接作用は考えにくいと思います。
淋菌感染では精路の通過障害が考えられます。精路の中でも精巣上体(副睾丸)を構成している多数の細管が閉塞状態になるため、精巣(睾丸)で造られた精子が射精管口まで到達できないことが主な原因になります。精巣上体管は精巣で造られた精子が通過するところですが、精子の発育にも関与しています。
性感染症には入りませんが、精巣上体管閉塞は結核菌の感染でも起こります。性器結核に対しても早期に治療すれば炎症の緩解と共にその後に起こる精巣上体管の閉塞を少なくすることができます。
淋菌感染の治療をしないでいると精巣上体管の閉塞が進行します。治療をしていても、適切な抗菌剤の選択を怠ると、結果的に男性不妊症になってしまう危険性があります。

副性器の分泌機能への影響については次の機会に触れます。

 

 

 

77 流行性耳下腺炎になった男性はみんな無精子症になり、男性不妊症になってしまう?
精子(602004) X

流行性耳下腺炎はウイルス感染によって起こります。思春期以降にこのウイルスに感染すると、約15〜25%の確率で精巣炎(睾丸炎)になります。精巣炎を合併すると精巣は腫脹するので炎症を起こしていることは簡単に診断することができます。精巣炎でも両側性のものはその約1/3位です。
流行性耳下腺炎に伴う精巣炎が男性の任よう性を全て低下させるのかというと、必ずしもそうとは言えません。病理学的に考えてみると、精巣の間質という部位の浮腫が顕著になります。しかもその間質に多数の炎症性細胞が浸潤してきます。
無精子症などの精巣機能障害はそのような間質の変化に伴って、精子を造る精細管が壊死に陥ってしまうことによるものです。しかし、現在の医療ではこのような病態が明らかになってきているので、昔と違って精細管の障害を起こすことは少なくなってきたわけです。

 

 

75 男性の尿路感染症などのため、抗菌剤を用いた治療後の妊娠は胎児に対する影響がある?
精子(602003) X

抗菌剤には病原微生物が増殖する時に必要な蛋白合成を阻害することでその作用を発揮する薬剤があります。理論的にはこの作用は精子形成過程にも作用する場合がありますが、短期間の使用ではほとんど問題にはなりません。精子形成過程は複雑なので省略しますが、少なくとも短期間の抗菌剤の使用で精子の遺伝情報などが影響を受けることはありません。

ある程度注意しておかなければならない点は、妊娠初期から妊娠中期にかけての胎児の発育段階における影響は考えておかなければなりません。しかし妊娠に関与した精子に対する影響は理論的に考えにくいという意味でXにしました。

 

 

 

 

67 陰嚢内臓器の疼痛について
陰嚢疾患(110001) 解説

陰嚢内臓器の疾患で疼痛を伴うものには、問題33で触れたように精巣や精巣上体の炎症、精巣捻転(精索捻転ともいう)があると述べました。その他にも頻度は低いのですが、精巣(睾丸)垂捻転と精巣上体(副睾丸)垂捻転について述べます。

妊娠して赤ちゃんがお母さんの体内で発育する段階では、男の子になる場合も女の子になる場合も元々は同じもの(原基)から発達していきます。精巣や卵巣のような性腺の他にも、内・外性器の発育にはミュラー管とウォルフ管が関与します。男の子ではウォルフ管が発達して、ミュラー管は退化していきます。これに対して、女の子ではミュラー管が発達します。
精巣垂はミュラー管の遺残で精巣に付着しているのですが、特別な働きはしていません。精巣上体垂は中腎管ないしはウォルフ管由来の遺残で精巣上体に付着しています。これらの垂(付着物)が捻転をおこすと疼痛を伴うわけです。しかし、痛みが持続しなければ様子を見てもかまいません。痛みが持続するようであれば手術的に切除すればよいわけです。
しかし、問題33でも触れましたように、精巣捻転は精巣への血流が遮断されますので、緊急手術をしなければなりません。この点が垂の捻転とは対応方法が異なるわけです。

 

 

 

 

61 正常と診断された夫婦であれば、期待された排卵日には必ず妊娠することができる?
不妊症(501003) X

子供がほしいと思ってもなかなか妊娠しないカップルがいらっしゃいます。そのような場合、男性は泌尿器科で精液検査を受けて精子数や精子の運動性に問題がないと診断されるように、女性も産婦人科で正常であると診断されることがあるわけです。

結論からいいますと、男性も女性も正常な場合の妊娠できる確率は、計算上1.9排卵周期に1回となります。約二回の排卵周期に一度ということになります。このように男性も女性も正常であるにもかかわらず、なぜ100%の確率で妊娠しないのかということの背景を考えてみます。
男性の要因として、精子数(正確には運動精子数)が一定していないということがあげられます。極端な例ですが、精子濃度だけについても問題16でふれました。運動精子数が減少している場合にはその排卵時には妊娠できないということがいえるわけです。同じように女性の場合も、正常排卵回数が年間12回としますと、正常と診断されていても、何らかの原因で年間排卵回数が減少してくるわけです。男性と女性の原因の状態によっては妊娠の確率はさらに低下し、3排卵周期、4排卵周期、・・・に一度と低下してくるわけです。

妊娠の確率は低下しても、妊娠が成立している場合にはほとんどの場合妊娠前の精液検査では正常と診断しているはずです。この問題の解答として、「期待された排卵日に必ずしも妊娠するとは限らない」という意味でXにしました。男性の方で、二番目の子供さんが欲しいので運動精子数を増やすという意味で投薬を希望してくる患者さんがおります。これは正しい考え方です。

 

 

 

 

45 精子数を増やす最も効果的な方法は、精巣(睾丸)内で精子の元になる細胞の細胞分裂を促進させることである?
精子(602002) X

精巣内には精細胞分裂の最も初期の細胞がありますが、これを幹細胞と呼びます。幹細胞の分裂は特殊です。細胞分裂で一個の幹細胞は二個になりますが、このうちの一個は幹細胞として残ります。残りの一個は精祖細胞になります。そうでなければ精子形成が一生涯にわたって継続することは不可能になります。
現在の治療でこの幹細胞を増やすことはできません。

精祖細胞(染色体数は46本)は細胞分裂で精母細胞になります。精母細胞の分裂は特殊で第1分裂と第2分裂を経て精子細胞になって行きます。この課程で染色体数が23本になるので減数分裂とも呼ばれます。精子細胞から精子までは発育段階のみで、精子の持つ染色体数(23本)にも変化はありません。
このような細胞分裂課程で理論的に全てが精子になるわけではありません。細胞分裂の課程でかなりの精細胞が消失してしまいます。

各課程での消失率を計算してみると、

精祖細胞の分裂期   10.6%
精母細胞の第1分裂期 12%
精母細胞の第2分裂期 15%
精子細胞の発育期   10%  となります。

正常の場合でも理論的精子発生数の約40%が消失し(39.81592%)、精子になるのはやく60%ということになります。
精子数が減少している場合はこの課程での消失率が極端に多くなってしまうわけです。この消失率を少なくして正常の場合のように40%に近づけることが治療法の基本になるわけです。いろんな要因が複雑に絡んでいるのでなかなか難しいことも事実です。
ごく希ですが、精巣を刺激するホルモンが低下している患者さんがおります。この場合はホルモンの補充療法をすればよいので治療は簡単ですが。

 

 

 

 

 

35 男性不妊症の原因として【逆行性射精】は無視してもよい?
男性不妊(501002) X

射精現象は、A)精液の後部尿道への排出、B)膀胱と尿道の境界である内尿道口の閉鎖、C)外尿道口から精液の排出、という三段階で成り立っています。

【逆行性射精】は後部尿道への精液の排出はあるのですが、Bで述べた内尿道口部の閉鎖が十分でないため、精液が膀胱内に流入し、外尿道口からの排出が不十分な現象です。

内尿道口部の閉鎖が十分でない原因として、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)や精巣腫瘍で後腹膜リンパ節郭清などのように原因が明らかなものもありますが、原因不明の特発性のものもあります。むしろ原因不明のものの頻度が多いのです。
精液がほとんど膀胱内に入ってしまう場合は射精感はあっても実際に外尿道口から精液が出ないので分かりやすいのですが、一部のみが膀胱内に入ってしまう場合は気付かないので注意しなければなりません。
精液量が少ないような場合には、射精後の検尿で精液成分が混入していないかどうかを確認しなければなりません。
治療法としては、基本的に射精する前に内尿道口部を収縮させる薬剤を内服するか(軽症の場合)、膀胱内に射出された精子成分を抽出して人工授精することになります。他にもいろんな方法がありますが、特に難しいことではありません。

TEL 022-277-2201