精子数、停留精巣(停留睾丸)

KIMURA Urological Clinic, Department of Urology

33 両側の急性精巣(睾丸)炎は男性不妊症の原因になることがある?

急性精巣炎は流行性耳下腺炎ウイルスによることが圧倒的に多い。感染経路は全身の感染巣から血行性に感染します。
一般細菌などが起炎菌となることはほとんどありません。

思春期以降に発症した流行性耳下腺炎患者の30%が精巣炎を併発し、そのうち両側性の精巣炎は10-30%であると考えられております。
無精子症の原因となる精細胞障害は血流障害によるものです。罹患側精巣の約30%で精細管萎縮になり精細胞は消失してしまいます。両側性の精巣炎は不妊症になることが多いのはこのためです。男性ホルモンの分泌に関与する間質細胞障害は比較的少ないようです。

治療は精巣の血流を保つような方法を考えなければなりません。泌尿器科で適切な治療を行えば精細胞障害もある程度軽減することは可能です。
ワクチンは流行性耳下腺炎の発症を防ぐためには有効ですが、精巣炎を併発してしまってからでは当然のことながら効果はありません。

鑑別しなければならない疾患としては、急性精巣上体(副睾丸)炎、精巣捻転症、外傷による精巣損傷などがあります。
精巣捻転症は精巣への血流が遮断されますので、緊急手術で回転を戻し、固定手術をしなければなりません。放置しておくと精巣が萎縮してしまいます。

男性不妊(501003)(00/04/25)

 

 

 

 

 

30 ×

精子に存在するDNAは妊娠の成立にそれほどの影響を及ぼすとは考えられない?

精子には子孫形成に重要な役割を演じるDNAが含まれています。精子が卵子と結合して胎児形成にはいる課程で、このDNAに異常があると妊娠がうまく成立しなくなります。

不妊症で悩んでいるカップルの精子と妊娠に成功しているカップルの精子のDNAを調べてみると、不妊症カップルの精子のDNAには明らかに異常があることが分かってきました。この場合、不妊症カップルのDNAの異常が比較的多いということを意味しております。
ここで考えなければならないのは、精子形成過程のどこかで異常をきたしたのかということになるのですが、まだ分かりません。精子形成過程については問題21で一部ふれておりますが、非常に複雑なのです。精巣内に存在する精子細胞遺伝的には精子と同じで、何れも染色体数は23本に異常が少ないとすればこの精子細胞を使えば妊娠に導くことは可能で一部行われてもおります。しかし成功率が低いことを考えると精子細胞自体にもDNA異常があると考えざるをえなくなります。
今後の課題は、如何に効率よくDNA異常のない精子または精子細胞を選別出来るかということになります。

精子(602001)(00/03/24)

 

 

 

 

 

21 × 小児の停留精巣(睾丸)の手術は小学校に入学する頃までに行えばよい。急ぐ必要はない。

●手術時期を考える前に、なぜ人間の精巣(睾丸)が出生時に陰嚢内にあるのかを考えると分かりやすいと思います。精巣が陰嚢内に下降する必要がないのであれば、妊娠中にわざわざこのような課程をふむ必要もなかったわけです。

精巣が陰嚢内に存在する理由は、二次性徴期頃から始まる精巣内での精子形成過程と大きな関係があります。その点で卵巣とは異なるわけです。
卵巣にはその必要がないので、おなかの中に留まることになります。

●陰嚢は寒い(冷たい)環境では収縮し、暖かい環境ではだらんと伸びています。伸びることによって熱を放散しているわけです。このような機序で陰嚢部の温度は卵巣などが存在しているおなかよりも、約1.5〜2度(摂氏)低くなっています。
このような温度環境が精子形成に重要なのです。

●それならば、小学校入学前にはまだ精子形成過程が始まっていないのだから、その時期に手術をしてもよいのではないかと考えてもよさそうですが、次のような理由で誤っていると考えます。
精子形成に入る前の精巣にも大人と同じように精子のもとになる精祖細胞という細胞があります。この細胞が細胞分裂(体細胞分裂と減数分裂)によって精子に発育してゆきます。
精祖細胞の数は生まれたときから陰嚢内にあった精巣でも、おなかの中に停留していた精巣でも、生後1歳頃まではどちらも同じなのです。しかし停留精巣では1歳を過ぎると徐々に減少し、おなかの中に6歳頃まで停留していた精巣では、精祖細胞は極端に減少するか、ほとんどなくなってしまいます。
このような重要な所見から、理想的には生後18ヶ月頃までに陰嚢内に固定する手術をする方がよいと考えられるわけです。そこで、一応2歳をめどに手術するようにしたのが約10数年前ですから、十年後にはその成果が判断できると思います。

精巣のもう一つの重要な働きの一つに男性ホルモンの分泌作用があります。これはライディッヒ細胞という細胞が関与します。一般的には停留精巣は男性ホルモンの分泌作用には影響ないようにも思えますが、詳しく検討するとやはり影響はあります。

●もう一つは精巣腫瘍(がん)との関係を無視することはできません。しかし、停留精巣を陰嚢内に固定しても精巣腫瘍になる確率は変わりません。、停留精巣はそのものががんになりやすいのも事実です。
精巣腫瘍は青年期に多いのですが、小児にも高齢者にもみられます。
しかし、陰嚢内に精巣を固定しておけば、精巣に腫瘍ができた場合、おなかの中でできた腫瘍に比べて早期に発見しやすくなります。

これらの理由から、正解はXとします

このようなことを述べると必ず反論があることも承知しています。
私が反論するとすれば、次のような反論をするでしょう。自分で書いておいて自分で反論するのも変な話ですが・・

1)停留精巣は精巣ができあがった時点で障害があったのだから、陰嚢内に下降できなかったのだと。
2)精祖細胞の数は、生まれたとき陰嚢内にあった精巣でも、おなかの中に停留していた精巣でも、生後1歳頃まではどちらも同じであると述べました。そして停留精巣では1歳を過ぎると徐々に減少し、おなかの中に6歳頃まで停留した状態でおくと、精祖細胞は極端に減少するか、ほとんどなくなってしまうという事実を述べました。
しかし停留精巣の精祖細胞の運命はもともと障害があったのだから、出生後1歳頃に陰嚢内に固定しても、6歳頃までには消滅してしまう運命にあるのではないかと。

残念ながら、私はこれらの反論に対するデータを持っておりません。前に触れましたように、これに対する結論は十年後に明らかに出来ると思います。
しかし、現段階での知見をもとにすれば、2歳をめどに陰嚢内に精巣を固定する手術をした方がよいと考えますが、皆さんはどのように判断しますか?

男性不妊(501002)(00/01/07)

 

 

 

 

 

16 × 男性の精液を一週間ごとに連続的に検査した場合、精子数は大体同じような数になり、大きな変動はない

●精液中の精子数(濃度)は検査日よって変動します。
通常、医療期間で精液検査をする場合、治療を目的としていますので、治療前に3回くらいの検査をして、その平均値から治療の可否を判断するのが一般的です。

下の図はある正常な男性の経時的な精子数を見たものです。未発表データだそうです。
私は大学時代を含め、数千検体を超える精液を顕微鏡などで検査していますが、これほどの大きな変化には気付いておりませんでした。
正常者で週に一度の精液検査を連続して120回も行うということは余程の協力がないとできません。その意味では大変貴重なデータです。

●一時期、内分泌かく乱化学物質(ホルモンではないが日本では環境ホルモンと呼ばれているによって、男性の精子数は減少しているとマスコミなどを賑わしたことがありました。
内分泌かく乱化学物質の働きの一つとして、女性ホルモンのような作用をする物質があります。そこでこれらの物質が、精子数にも影響を及ぼすのではないかという発想を持つ気持ちはよく理解できます。しかし、実験動物と違って、人間ではそう単純ではありませんが。
その結末がどうなったのか私は知りませんが、否定的に見ております。

▲しかし妊娠中のお母さんからの影響で、妊娠(胎生)3週〜7週にかけて造られる胎児の精巣(睾丸)への影響は十分考えられます。

このような影響が胎児の時期にあったとすると、子供の二次性徴期以降の精子数減少のみならず、男性としての性行動にも影響を及ぼすことになります。いわゆる女性らしい性行動をする男性になってしまうというわけです。

この点については、マスコミなどでも取り上げていない点を考えると、理解している方が少ないのではないかと懸念しております。性行動については、脳の性分化の時期にも関係するので時期は少しずれますが。
●成人男性の精子数に影響を及ぼすと考えられる要因については後日触れることにしましょう。

●この種の報告はこれからもどんどん出てくると思います。データを正しく読む目を養ってください。情報が氾濫する時代ですから。

●Paulsen, C. A.より。
週一度の割合で約120週にかけて検査をした正常男性の精子数の変化。

縦軸に精子数、横軸に週を示す。この期間、薬剤投与はなかったそうです。
2000万のところの横線は米国で決められている正常者の精子数の下限値。

●上の表は少し変化が大き過ぎる例だとは思いますが、結構な変動幅があることは事実です。

男性不妊(501001)(99/12/03)

 

 

 

 

 

62 精液中の精子の数が少ないために子供ができにくい方の治療は3ヶ月間を目処にしなければならない?

男性不妊症といわれている方の治療をした場合、精子数が増えるのは治療後どれくらい経過すれば分かるのかは非常に複雑な要因を考えなければなりません。射精時に精液中に現れる精子は精巣(睾丸)内で作られますが、精子の元になる精祖細胞から細胞分裂によって精母細胞、精子細胞を経て精子になります。精子数を増やすためには大きく二つに分けて考えなければなりません。

一つの考え方は精細胞の細胞分裂を促す治療方法です。上で述べた精巣内での精祖細胞から精子細胞までの課程に要する期間はヒトでは72日です。さらに精巣上体(副睾丸)での精子の発育期間を考えると、精液検査で精子数の増加を確認するためには少なくとも3ヶ月を要するというわけです。
精子数の増加にはもう一つ重要なことを忘れてはなりません。ヒトでの検討はできませんが、ラットの全精子発生過程を通じ、正常の場合でも精細胞が途中で消失する段階は次の4つがあげられます。

A型精祖細胞の細胞分裂期(mitosis)で 10.6%
精母細胞の第1分裂期(maturation devision) 12%
精母細胞の第2分裂期(maturation devision) 15%
精子細胞の発育期で 10%

このように理論的精子発生数の約40%が消失(39.81592%)し、精子になるのは約60%(60.18408%)になります。これらの時期での消失を少なくすることでも精子数を増やせることが理解できると思います。これらの分裂時期は精祖細胞の一番最初の細胞分裂をのぞけば、上で述べた72日の中にはいるので3ヶ月よりも早い時期に精子数の増加という効果は現れるわけです。しかし、最初の段階からという判断で正解はとしました。

不妊症(501004)(01/04/26)

 

 

 

 

 

 

69 前立腺炎や精巣上体炎(副睾丸炎)のような副性器の炎症が男性不妊症の原因になることもある?

「更新の履歴」でも触れましたが、前立腺炎や精嚢炎、精巣上体炎(副睾丸炎)などの副性器の炎症を放置しておくと、男性としての妊孕性が低下することがあります。しかし、不妊症の原因になるためには、病原微生物の種類や不適切な治療との関連もありますので、必ず不妊症になるというわけではありません。

副性器の炎症が不妊症の原因になる場合、次の三点を抑えておく必要があります。第一に病原微生物の精子への直接作用、第二に副性器の分泌機能への影響、最後に炎症が治癒した後の副性器の器質的な変化というわけです。

精巣で精子がつくられて射精されるまでに精子が通過する道筋を精路と呼びます。精子への直接作用として、細菌には殺精子作用があるとする報告もありますが、私は男性不妊症になるほどの作用はないと考えています。また、正常の精液に生きている大量の病原微生物を添加すると精子の活性は低下しますが、通常の前立腺炎などでは精子がこのように大量の病原微生物に遭遇しているとは考えられません。このように精子への病原微生物の直接作用は考えにくいと考えています。

副性器からは精子の活性に欠かせない物質が分泌されています。正常の妊娠では精子の活性は重要です。私は炎症によって副性器の分泌機能が低下するために精子に悪影響を及ぼし、その結果として不妊症になるケースがあると考えています。

最後に副性器の器質的な変化も重要です。精巣上体(副睾丸)には精子が通過する多数の精巣上体(細)管があります。この精巣上体管が閉塞するとせっかく精巣で精子がつくられても精液内に到達することは出来ません。代表的なものに淋菌と結核菌があります。性器結核に対しては、早期に治療すると炎症の緩解と共に、その後に起こる精巣上体管の閉塞を少なくすることが出来ます。淋病でも同じことが言えます。淋病の治療をしないでいると精巣上体管の閉塞が進行してしまいます。一方、淋菌に対する治療をしていても、抗菌剤の選択を間違えて治癒するまで時間がかかりすぎても結果的には同じことになります。最近はある種の抗菌剤に耐性を持った淋菌が増えているので特に注意しなければなりません。

不妊症(501005)(01/08/26)