停留精巣(停留睾丸)の手術時期

KIMURA Urological Clinic, Department of Urology
小児の停留精巣(睾丸)の手術は小学校に入学する頃までに行えばよい。急ぐ必要はない?

正解は×です。

手術時期を考える前に、なぜ人間の精巣(睾丸)が出生時に陰嚢内にあるのかを考えると分かりやすいと思います。精巣が陰嚢内に下降する必要がないのであれば、妊娠中にわざわざこのような課程をふむ必要もないわけです。

精巣が陰嚢内に存在する理由は、二次性徴期頃から始まる精巣内での精子形成過程と大きな関係があります。その点で卵巣とは全く異なります。
卵巣にはその必要がないので、おなかの中に留まることになります。

●陰嚢は寒い(冷たい)環境では収縮し、暖かい環境ではだらんと伸びています。伸びることによって熱を放散しているわけです。このような機序で陰嚢部の温度は卵巣などが存在しているおなかよりも、約1.5〜2度(摂氏)低くなっています。
このような温度環境が精子形成に重要なのです。

●それならば、小学校入学前にはまだ精子形成過程が始まっていないのだから、その時期に手術をしてもよいのではないかと考えてもよさそうですが、次のような理由で誤っていると考えます。

●精子形成に入る前の精巣には、精子のもとになる精祖細胞という細胞があります。この細胞が細胞分裂(体細胞分裂と減数分裂)によって精子になってゆきます。

精祖細胞は、生まれたときから陰嚢内にあった精巣でも、おなかの中に停留していた精巣でも、生後1歳頃まではどちらも細胞数は同じなのです。しかし停留精巣では1歳を過ぎると徐々に減少し、おなかの中に6歳頃まで停留していた精巣では、精祖細胞は極端に減少するか、ほとんどなくなってしまうのです。

このような重要な所見から、理想的には生後18ヶ月頃までに陰嚢内に固定する手術をする方がよいと考えられるわけです。そこで、一応2歳をめどに手術をするようにしたのが約10数年前ですから、十年後にはその成果が判断できると思います。

精巣のもう一つの重要な働きの一つに男性ホルモンの分泌作用があります。これはライディッヒ細胞という細胞が関与します。一般的には男性ホルモンの分泌作用には停留精巣は影響ないようにも考えられていますが、詳しく検討するとやはり影響はあるのです。

●もう一つは精巣腫瘍(がん)との関係を無視することはできません。しかし、停留精巣を陰嚢内に固定しても精巣腫瘍になる確率は変わりません。、停留精巣はそのものががんになりやすいのも事実です。
精巣腫瘍は青年期に多いのですが、小児にも高齢者にもみられます。
しかし、陰嚢内に精巣を固定しておけば、精巣に腫瘍ができた場合、おなかの中でできた腫瘍に比べて早期に発見しやすくなります。

これらの理由から、正解はXとします

●このようなことを述べると必ず反論があることも承知しております。
私が反論するとすれば、次のような反論をするでしょう。自分で書いておいて自分で反論するのも変な話ですが・・

1)停留精巣は精巣ができあがったときにすでに障害があったのだから、陰嚢内に下降できなかったのだと。
2)精祖細胞は、生まれたとき陰嚢内にあった精巣でも、おなかの中に停留していた精巣でも、生後1歳頃まではどちらも同じような細胞数であると述べました。そして停留精巣では1歳を過ぎると徐々に減少し、おなかの中に6歳頃まで停留した状態でおくと、精祖細胞は極端に減少するか、ほとんどなくなってしまうという事実を述べました。

しかし停留精巣の精祖細胞の運命は、もともと障害があったのだから、出生後1歳頃に陰嚢内に固定しても、6歳頃までには消滅してしまう運命にあるのではないかと。

残念ながら、私はこれらの反論に対するデータを持っておりません。前に触れましたように、これに対する結論は十年後には明らかにすることができるでしょう。
しかし、現段階で明らかになっていることをもとにすれば、2歳をめどに陰嚢内に精巣を固定する手術をした方がよいと考えますが、皆さんはどのように判断しますか?

●最後に、付け加えておきますが、精巣を陰嚢内に固定した場合、精巣への血流が十分に確保されていなければなりません。そのためには二段階の手術をしなければならない場合もあります。
おなかの中にある精巣(腹腔精巣)を摘出してしまう方法が一部で行われていることも知っております。しかし、この方法の善悪についてのコメントを今までしたこともなかったし、今後もするつもりは一切ありません。