LOH症候群 男性更年期障害 (中高年からの「男性機能」)

中高年男性に現れる、心身の不調 加齢、ストレス、男性ホルモンの減少が原因。

 ここ数年「男性の更年期」という言葉をよく耳にするようになりました。疲れやすい、朝起きてもからだがだるい、頭が重い、めまいがする、何もしていないのにからだの節々が痛い、不安感や焦りが募る、イライラする…。中高年にさしかかり、男性の身の上に突然起こるこうした変調が、従来から知られている女性の更年期症状と、よく似ているというのです。

 木村先生は「中高年男性にも更年期の女性同様の不定愁訴が現れやすいと指摘する学術論文は、すでに1929年の日本にあった」とおっしゃいます。

 「その論文が発表された当時はホルモン研究も充分ではなく、男は弱音を吐かないのが美徳とされた歴史的背景もあって、長い間、研究は止まったままでした。それが最近になって、加齢とともに男性ホルモンの分泌量が減少することと関係があるらしいとわかるようになり、徐々に認知されるようになってきたのです」。

 女性の閉経前後(およそ50歳前後)の10年間は、急激に女性ホルモンの分泌量が減少することによって心身にさまざまなトラブルが現れてきます。これに対して男性には“閉経”という区切りがないものの、加齢によって男性ホルモンの分泌量は徐々に減少。特に40〜50歳代には社会的責任が重くなることが多く、ストレスが増大するなど外的な要因も加わって、さらにホルモンのバランスがくずれて心身の不調につながると考えられています。

「患者さんを診ていて感じるのは、体調不良の原因がわからない状態が続くことでストレスがたまり、ますます落ち込んでしまう人が多いことですね」。

 内科や脳神経外科など専門科で、あらゆる検査を受けても数値はすべて正常範囲内。しかし体調が悪いという実感は、相変わらず続く。こうした積み重ねで不安が募り、集中力の低下や気力の低下に、ひとり悩む男性が多いそうです。

「中高年男性に多いのが、ED(勃起障害)に代表される性機能の低下や性欲の減退、前立腺肥大によって起こるさまざまな排尿トラブルです。欧米では夫婦間の性交渉が減ること自体が大きな問題にされますが、日本人は性機能や生殖器に関して語りたがらない風潮があります。問診でもセックスができないわけではなく、やる気がしないだけと言う。しかしじっくりと話を聞くと性機能の衰えが自信を失わせ、気分の落ち込みに拍車をかけていることがわかります。その証拠にEDが改善されれば男としての自信も回復できるし、それをきっかけに体調も好転する人が多いのです」。
キーワード 男性ホルモン、遊離テストステロン、フリーテストステロン

中高年男性に多いEDや、前立腺肥大 自律神経の乱れや性ホルモンの反応低下も影響。

 EDとは、医学的には「性欲があるのに陰茎が勃起しなかったり、射精まで維持できないことで満足な性交を行えない状態」と定義され、現在日本では1100万人以上いるといわれています。原因によって3つのタイプに大別されます。

●心因性…ストレスや過去の不快な記憶など、心に起因する。
●身体性…加齢による男性ホルモン(主にテストステロン)の減少や、血管・神経の障害など、身体的な障害による。
●混合性…身心両方の原因が、複雑に関係している。
 「身体性」や「混合性」で、中高年のEDに最も大きな影響をおよぼすと考えられているのが、テストステロンといわれる男性ホルモンの減少です。下図のグラフにあるように、ED患者のうち、テストステロンの欠乏を原因とするEDの割合は、年齢を追うごとに多くなっています。また、めまいやだるさなどの不定愁訴を訴える中高年男性の血液検査でも、テストステロンの血中濃度が低いケースが多いとされます。

 「私の推論では、そのほかにも加齢とともに性ホルモン受容体の反応が不充分になることも大きいのではないかと考えています。EDなど中高年男性特有の症状を訴える患者さんでも、実際にはテストステロンの血中濃度に変化のないケースもあるからです。さらに加齢によって全身の細胞の機能が低下することや、自律神経のコントロールが乱れがちになることも、無縁ではないでしょう。自律神経は男性ホルモンの分泌量の減少やストレスによっても乱れやすい。そうなると症状も強くなりがちです」。
 たとえば陰茎の勃起や収縮に関わる一連の動作には、自律神経が深く関与しています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、仕事に集中したり緊張しているときには交感神経が機能し、リラックスしているときには副交感神経が優位に機能していることが知られていますが、勃起状態を保つために求められるのは副交感神経。不安や焦りなどで交感神経が優位になってしまうと、勃起状態が維持できず、EDの原因になってしまいます。
「こうしたメカニズムを正しく知るだけでも心が軽くなり、心身によい影響をおよぼすものです。高齢者でもカウンセリングを行い、レビトラやバイアグラの処方で性生活が現役だという方も少なくありません。中高年男性には『いまさら年甲斐もない』などと諦める必要はどこにもない、と言いたいですね」と木村先生。

 もうひとつ中高年男性の特徴的な更年期症状といえるのが、前立腺の組織変化に伴う排尿トラブルです。前立腺は尿道を取り囲むようにある男性性器の一種。ここが肥大した「前立腺肥大症」では、尿道や膀胱底部が圧迫されるため、尿意があるのにすぐにでない、尿の切れが悪くなる、勢いがなくなり残尿感があるといった症状につながります。こうした症状は一般に40〜50歳代で増え始め、60代では半数以上が、80代では90%が悩まされているといわれます。原因については加齢や男性ホルモンの減少の影響などが推測されるものの、まだはっきりとは解明されていません。「ケルン市民8000人を対象とした最近の研究調査によると、ED患者の約7割は、前立腺肥大などでみられる膀胱や尿道に不快な症状を感じる“下部尿路症状”があると発表されています。このデータから早急に結論は出せませんが、男性ホルモンとの関係はこれからの研究で明らかになるでしょう」と木村先生は話されます。

活力を取り戻して、心身ともに元気に過ごす 生涯現役をめざして、生活習慣の再点検を。

 中高年にさしかかり、今までのようにスタミナが続かない、疲れやすいといったことが続くと「若い頃は、こんなではなかったのに」と落ち込む男性が多いようです。特に、これまでバリバリと仕事をこなしてきたと自負する男性ほど、心身の変調に戸惑い、焦りを感じがちです。しかし中高年は、いわば人生の転換期。若い頃のように突っ走るよりもむしろ、若い人にはない経験と知識に裏づけられた成熟味を身につけているのですから、もう少しゆったりとした生活ペースにかえてはどうでしょう。木村先生は、普段、患者さんに3つのことをアドバイスされるそうです。

「1、趣味の時間をもつなどして、ストレスを自分なりにコントロールできる能力を身につける。2、毎朝30分程度戸外で朝の光を浴びる。3、豆腐や納豆など、大豆製品を毎日食べる。これらは特別なことではなく、いままでの生活習慣の再点検、再整備といえます。1、が難しい人でも残りの2つを実行するだけで、症状が改善される患者さんは多いんですよ。なかでも3、はすぐ始められる。現代人は、どうしても肉や揚げ物など高脂肪・高カロリーに偏りがちですからね。バランスを正すには、大豆製品を主食に据えるくらい意識するのが大切です」。

 早朝の光を浴びながらの軽い散歩や庭いじり、愛犬の散歩にでかけるなどリラックスした時間をもつことは、心の健康にも役立ちます。またカリフォルニア大学の研究では、1000ルクスの明るい光を1時間ずつ5日間浴びるだけで、男性ホルモンの分泌を促す黄体化ホルモンの量が69.5%も増加したという実験データも報告されています。毎日早起きして規則正しい生活を続けることで、生活習慣病を遠ざける体質づくりにも、つながります。

 食事を毎日同じ時間に摂るようにすることも、規則正しいリズムを取り戻すのに大切です。いろいろなものを食べることで栄養のバランスが保てるようになります。

 たとえば牡蛎、レバー、ゴマ等に含まれる亜鉛は、性欲などをつかさどる男性ホルモンや精子が精巣でつくられるのを助けます。ニンニクにはビタミンB1が多く含まれ、滋養強壮や疲労回復に作用することが知られています。こうした食材をプラスしながら、ゆっくりとよく噛んで、できるだけ家族と食事を楽しむようにしましょう。過度のアルコールは男性機能を弱めるといわれ、肥満や生活習慣病にもつながるので、適量に。ただし一念発起して禁酒に挑んだり、イヤイヤ始める運動習慣などは、かえって新たなストレスになることがあります。旅行や外食、新しい交友など、通常ならストレス解消のよい手段と考えられることも、周囲から無理強いするのは逆効果。あくまでも本人がその気になるまで、家族が見守ってあげては、どうでしょう。

 生涯現役、パワフルでいたいのは、多くの男性が願うこと。若い頃のようながむしゃらさとはまた違った、実年世代ならではの過ごし方を、じっくりとさがしていくことも楽しいのではないでしょうか。

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